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遊び心のある粋な暮らしを。季節や暮らしのモノ・コトをもっと楽しむための知恵・知識、アイデアを提案するエッセイです。
ひとつひとつの花は小さな存在ながら、
季節感の薄らいだ現代に生きる私たちにも
春を明確に意識させ、楽しい気分にしてくれます。
そんな花々を日々の暮らしに。
そして温かな毎日を…。
本誌では「花を食す」をキーワードに、2パターンの調理をご紹介しました。
1つ目は、「菜の花」が主役。菜の花は、おひたしで食べられることが多い食材ですが、ここでは、すりおろし玉ねぎとブラックペッパーを加えたマヨネーズを添えて洋風にアレンジしてみました。
というのも、菜の花に豊富に含まれるβカロテンは、油と一緒に摂ることで、吸収がよくなるから。
マヨネーズ添えだけでなく、パスタ、炒め物、天ぷらも…。油を使ってハイカラな菜の花料理をお楽しみください。
もう1つは、野菜を花に見立てて楽しむ料理。
刺し身をクルクル巻いて花のように盛る「花造り」を応用した、野菜の花造りです。
お祝い事やおもてなしの料理に、ちょっと添えてみてはいかがでしょう。
陽のひかりが暖かく差し、色とりどりの花が咲く春のイメージから、食の面でもやさしく和かい味わいの料理や菓子を連想する人は多いかもしれません。
ただ春は菜の花や山菜に代表されるように、苦みのある食材が多い時季。苦みのもとは、ポリフェノールやアルカロイドなど。冬の間、体にたまった老廃物や脂肪の排出に有用とされる成分もあります。
「春の皿には苦味を盛れ」ということわざもあるように、この時季、苦味のある食べ物を口にすることは、季節の味を舌で楽しむだけでなく、体にも“おいしい”食べ方のようです。
菜の花や山菜など、春の食材には次のような苦み成分が含まれています。
●イソチオシアネート
菜の花をはじめ、大根・キャベツ・ワサビなど、アブラナ科の植物特有のイオウ化合物。
●ペタシン
フキノトウの苦み成分。フキ属の植物に含まれるアルカロイドの一種です。
●エラサイド
サポニンの一種で、たらの芽の苦みのもとになっています。
●クロロゲン酸
ウドの苦み成分。コーヒーに多く、さまざまな野菜が含有するポリフェノール。
「春苦味、夏は酢の物、秋は辛味、冬は脂肪と合点して食え」
この言葉を唱えたのは、明治時代に活躍した食医・石塚左玄です。
1851年、福井藩に生まれた左玄は、漢方医学を学び、明治時代には陸軍で薬剤監・軍医として活躍。その後、食養の普及に力を注ぎました。
当時はまだ、栄養学が学問として確立されていなかった時代。左玄は食と健康・知育・才育の関係を理論化し、その重要性を説きました。
また現在にも伝わる「玄米食」の提唱、あるいは長寿法を意味する「マクロビオティック」の礎となる理念を打ち出したのも左玄でした。
その土地で、その季節に手に入る旬の食材を食べることが、人間にとって自然なこと。左玄の言う「春苦味…」には、そんな「地産地消」を推奨する意味合いも含まれているようです。
ほろ苦い大人の味を楽しむことで、季節を感じ取り、自然と一体化する。そして新しい季節のなかで、その土地を慈しみつつ、みずからの体や心を整えていく…。
苦みの食材は、春の暮らしを幾重にも豊かにしてくれそうです。
コブシは日本に自生する植物。
学名も「Magnolia kobus(マグノリア・コブス)」と、コブシの名に由来します。
白い蝶が舞い飛ぶような花は、雪国の長い冬が過ぎたことを告げるかのよう。その可憐な風情と、春の農作業にからめて、コブシを「田打ち桜」と呼ぶ地方もあるそうです。
ことに、信州・白馬村の「四十九院のコブシ」の眺めは印象的。水を張った田に白い花が映り込み、さらに足もとの菜の花の黄色がアクセントとなって、美しい日本の原風景を見せてくれます。