沖縄の伝統工芸のこれから

沖縄は京都、東京に次ぐ伝統工芸の宝庫。やちむん、琉球漆器、芭蕉布・花織などなど、枚挙にいとまがない。「リブロン〜結〜」では、琉球王朝の華やぎを今に伝える「紅型」と戦後の沖縄の復興を象徴する「琉球ガラス」の工房を訪ねた。独特の鮮やかな色彩と伸びやかで自由な気風があふれる沖縄の工芸の魅力を感じていただけただろうか。
本誌で紅型作家・田中紀子さんの作品を購入できるお店としてご紹介した「tituti OKINAWAN CRAFT」のつなぎ手(コーディネーター)金城雅子さんに沖縄の伝統工芸のこれからを伺った。

「tituti OKINAWAN CRAFT」のつなぎ手 金城雅子さん
「tituti OKINAWAN CRAFT」のつなぎ手
金城雅子さん

沖縄の工芸を日々の暮らしの中に

紅型、やちむん、織物。色も形も素材もさまざまなのに、統一感に満ちた心地よい店内。デザインはもちろん使い勝手のよい品々が並ぶ。

「つくり手」と「つかい手」をつなぐブランドとして活動する「tituti」。きっかけは「沖縄新工芸研究会」。沖縄の工芸の新しい形を考えるために異分野の工芸家やデザイナーらが構成する組織だ。そこで出会ったのが、紅型の田中紀子さん、やちむんの金城有美子さん、織物の長池朋子さんとコーディネーターとして活躍する金城雅子さんだ。意気投合したメンバーは分野を超え「工芸と現代の暮らしとの距離を縮めて、新しい可能性を追求するために」活動をスタート。工芸ショップ「tituti OKINAWAN CRAFT」を開設したのは2010年のことだ。
とりわけユニークなのは、作家自身が運営から接客まで関わっている点だろう。そのせいか、各作家それぞれに個性的な品々が一堂に並ぶ店内は、不思議と調和がとれている。
「お互いに話し合うことをとても大切にしていますが、基本は作家さんたちの感性に任せていますね。バラバラなのに統一感があるというか。異分野ながらお互いに感化しつつ、切磋琢磨しながら寄り添っていくような感じでしょうか」と金城さんは語る。3人の作家さんたちの言葉も重なる。
「異分野の作家さんとともにものづくりをすることや、店に立ってつかい手であるお客様の目線になることで新しい発見があり、作品の世界が広がります」

紅型(びんがた)

紅型の田中紀子さんは、タペストリーや額絵のほか、バッグや財布など暮らしが楽しくなるオリジナルの小物を展開。

やちむん(焼き物)

金城有美子さんのやちむんは、ピンクや黄色、さんごブルーなどカラフルでポップなものから渋い土ものまで幅広い。軽くて持ちやすい機能性も好評だ。

織物

ロートン織、花織、絣など天然素材を丁寧に織り上げる長池朋子さんは、日常づかいしやすいテーブルウェアやショール、バッグなどをラインアップ。

「tituti OKINAWAN CRAFT」を支える(右から)紅型作家の田中さん、金城さん、スタッフの大湾さん。

「tituti OKINAWAN CRAFT」を支える(右から)紅型作家の田中さん、金城さん、スタッフの大湾さん。

沖縄の底力と自由闊達な気風で

森林浴をたっぷり楽しめる「ホロホローの森」。ガジュマルの大木や生命力あふれる南国の植物にパワーをもらおう。

「沖縄の工芸の魅力は?」金城さんに尋ねてみた。
「やっぱり色でしょうか。その土地でこそ発せられる色というものがあって、沖縄の強い光に映える色こそ、沖縄ではきれいだなあって思います」
「tituti」の背景には沖縄が色濃くある。沖縄の亜熱帯の気候風土や独自の文化、豊かな自然と人々の暮らし。沖縄という特別な土地、空気の中で暮らす、そこから生まれる作品たちは、あえて沖縄らしさを求めなくても、それぞれの自由な感性を通して自ずから強い存在感を放つ。だからだろうか、県外からに限らず、地元・沖縄の常連客も多いと聞く。土産物ではなく、地元の人が日用品として愛用する、毎日の暮らしにすんなりなじむ沖縄の工芸品が「tituti」には並んでいるから。

「オープンして10年。私たち自身も、またお客様も年を重ねてきました。それに伴い、ブランドとしては変わらないのだけど、一方で少しずつ変化している部分もあると思います。その変化を止めずに、変わり続けてこそ次世代につながっていくのではないでしょうか。これからも新しいことやものづくりに挑戦したり、“変わること”を止めずにやっていきたいですね」
「tituti」の3人の作家のうち2人は県外出身。県外からの移住者が多いのも沖縄の工芸作家の特徴である。
「それはそれでいいことだと思います。沖縄は、もともとさまざまなものを取り込みながら自国の文化をつくってきた歴史があります。うまくいいとこどりしながら、いつの間にか沖縄独特の文化のようにしてしまうんです」と金城さんはおおらかな笑顔で語る。
琉球王朝時代には日本本土や近隣のアジア諸国の文化を、戦後はアメリカ文化を、そして今は移住者を、すべてを鷹揚に受け入れつつ歩んできた沖縄の伝統工芸。今という時代と、人々の暮らしに軽やかに寄り添いながら、さらに輝き続けることだろう。

首里城を中心に造られた赤瓦と石畳が続く道。琉球王朝華やかなりしころが偲ばれる。
首里城を中心に造られた赤瓦と石畳が続く道。琉球王朝華やかなりしころが偲ばれる。
15世紀、海外貿易によって繁栄した阿麻和利が築いた勝連城跡。自然の断崖を利用した難攻不落と言われた城壁の頂上からは輝く青い海が一望に。
15世紀、海外貿易によって繁栄した阿麻和利が築いた勝連城跡。自然の断崖を利用した難攻不落と言われた城壁の頂上からは輝く青い海が一望に。
沖縄の海、空、緑はどれも色鮮やかで明るい。この地で生まれる工芸のように。
沖縄の海、空、緑はどれも色鮮やかで明るい。この地で生まれる工芸のように。

tituti OKINAWAN CRAFT

暮らしを彩る生活の道具から空間を演出するアート作品まで、沖縄の気候風土に育まれた感性豊かな作家たちによる作品が並ぶ。日常生活の中にそっと溶け込むような、特別な日をキラリと輝かせるような、長く愛用できる沖縄の工芸品の店。

tituti OKINAWAN CRAFT
tituti OKINAWAN CRAFT
住  所
沖縄県那覇市牧志3-6-37
電話番号
098-862-8184
営業時間
9:30~17:30
定休日
火曜
https://www.tituti.net
隅田川橋巡りの楽しみ