「冬バテ」という言葉をご存知だろうか?暦の上では春を迎えても、まだまだ厳しい寒さが続く2月。気分が晴れない、やる気が出ない、疲れやすいなど、とりとめのない不調を抱えているなら、それは「冬バテ」かもしれない。夏バテとは違って聞き慣れない「冬バテ」とは、一体どのようなものか。その原因や対処法は? 「冬バテかも?」と思い当たったら、参考にしてみてほしい。
気温が下がり寒さが厳しい季節になると、毎年のように体調が優れない、寝起きが悪い、溜まった疲れがなかなか取れないなど、漫然とした不調を抱えている人は少なくない。もしかしたらその症状は、「冬バテ」が原因かもしれない。
おそらく多くの人が聞き慣れない「冬バテ」という言葉だが、暑い季節に夏バテになるように、寒い季節にも「冬バテ」という症状が存在する。実は「冬バテ」も夏バテ同様に、気候が原因となって自律神経の働きがアンバランスになることで起こる症状とされている。
夏バテは夏の暑さによる体力の消耗や、冷たい食べ物や飲み物をとりすぎることによる胃腸機能の低下、外の暑さと室内の冷房による温度差などで、自律神経そのものがヘトヘトになり体調を崩す状態を指すことが多い。一方「冬バテ」は、寒さによる血管の収縮や、多忙によるストレスなどで交感神経が優位に働いてしまうことで、常に緊張状態で心身が休まらないことから体調不良を引き起こしてしまう。
「冬バテ」の症状には、次のような例がある。
・体がだるい
・気分が落ち込み物事を楽しめない
・集中力が続かずやる気が出ない
・小さなことにも過剰に反応し、すぐにイライラしてしまう
・十分に睡眠を取ったはずなのに疲労感が抜けない
・寝つきや寝起きが悪く、眠りも浅い
・頭痛や肩こり、筋肉のこわばり
・食欲不振や胃腸のトラブル
・風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすい
夏バテに比べて「冬バテ」の厄介なところは、冬という季節性も伴って室内に引きこもりがちになってしまうこと。日々の生活の質や仕事の効率を下げるという意味で、侮れない症状の一つといえる。
「冬バテ」の大きな原因の一つが、寒暖差だといわれている。冬は夏よりも昼夜の寒暖差が大きく、急激な気温の変化で自律神経が乱れて体調を崩しやすい。さらに寒さで体がガチガチになることで血管が収縮し、寒さから身を守ろうと"活動モード"の交感神経ばかりが働いてしまい、"休息モード"の副交感神経が働きにくい状態に陥るのだ。
日照時間の短さも関係している。冬は暗くなるのが早い分、太陽の光を浴びている時間が少なく気分も沈みがちに。そうすると、やる気や感情をコントロールする脳内物質のセロトニンが活性化されず、脳の働きも低下する。日照時間の短さが、自律神経と関わる体内時計のリズムを狂わせることで、心身の疲れはますます抜けにくくなるという。
また、クリスマスや忘年会、正月特有の気ぜわしさで神経が常に張りつめた状態が続く、年末年始の長期休みで乱れてしまった生活リズムをなかなか取り戻すことができない、といったことも免疫力の低下につながり、「冬バテ」を引き起こす要因となってしまう。 免疫力が低下すると、ウイルスへの感染リスクも高まるので注意が必要だ。
なぜ、自律神経のバランスが崩れると心身にさまざまな不調をきたすのか。自律神経には、アクセルのような働きをする交感神経と、ブレーキのような役割をもつ副交感神経の二つがあり、例えば交感神経が活発になれば心拍数は増え、副交感神経が活発になれば心拍数は減る。血液循環や新陳代謝、体温調節といった私たちの生命活動に欠かせない営みは、全てこの二つがバランスよく機能することで正常にコントロールされている。それだけにどちらか一方が優位に偏った状態が続けば、心身の不調を感じやすくなるのだ。
以上のことから「『冬バテ』かもしない」と感じたら、どのようなことを心がけて日々を過ごせばよいのだろうか。大切なのは、交感神経に偏り気味の自律神経のバランスを整え、副交感神経の働きを高めることだ。
ただでさえ忙しくストレスのかかりやすい現代人にとって、規則正しい生活、適度な運動、当たり前のようなことほど意識して実行に移すのは難しい......。継続できずに返ってストレスになってしまっては意味がないので、自分にとって無理のない範囲で意識するのがベスト。好きなものを食べる、好きなことをする、それだけでも心にゆとりは生まれるもの。忙しいときほど気持ちに余裕をもって、芽吹きの季節を健やかに迎える準備を始めたい。
福田 千晶(ふくだ・ちあき)
医学博士・健康科学アドバイザー。1988年慶應義塾大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院勤務を経て、1996年より健康科学アドバイザーとして講演および執筆を中心に活動。テレビやラジオ出演も多数。著書に『ホントはコワイ夏バテ51の対策』(日東書院本社)、『血液力をあげて病気にならない生き方』(永岡書店)ほか。