日清ファルマの製造拠点である上田工場。上田工場がある長野県上田市には、真田氏ゆかりの史跡や、かつて栄えた養蚕業を知ることのできる丸子郷土博物館など、この地の歴史に触れられるスポットが多く存在する。一方で、地元産のそば粉を使ったそば打ちや、伝統が息づく上田紬の機織り、信州で最も古い歴史を持つといわれる別所温泉といった、さまざまな体験ができる場所も。知欲と体験欲を刺激するスポットを巡れば、いままで知らなかった信州・上田の魅力を堪能できるはず。
年齢を重ねるにつれて、人生初の体験ができる機会は少なくなっていくもの。とはいえ、いくつになっても童心に返ってワクワクできるのが旅の醍醐味。上田市で楽しめる素敵な体験の一例を紹介していく。
今回は、信州・上田巡礼で体験欲を満たそう。
KNOWLEDGE
上田のソウルフード・おやきをつくる体験に挑戦。中身がひと目でわかるように、あえて具材を乗せて蒸す工夫も。
旅に欠かせない要素と言えば、やっぱりグルメ。信州そばやおやきなどを、自分で実際につくって食べる体験は、日常ではなかなか味わえないはずだ。
昼夜の寒暖差が大きく、水はけのよい山地に畑がある長野県は、そばの栽培に適していることから、信州そばが有名に。ただし、同じ信州そばでもその種類は多種多様。そば粉の種類や産地、つなぎに使う材料、挽き方、打ち方などが、それぞれ異なることを覚えておきたい。
長野県の郷土料理として、おやきを思い浮かべる人も多いだろう。このおやきにも、さまざまなバリエーションがある。まんじゅうに似た生地の中に具材が入っている点は共通しているが、具材が野菜のものや、あんこのもの、さらに蒸かす、焼いて蒸かす、揚げるなど、調理方法が異なるものでも、すべておやき。地域ごとに作物や食文化が違うため、多様なおやきが生まれ、親しまれてきたのである。
おやきづくり体験のひとコマ。具材を上手に詰めるには、平らに伸ばした生地の中央を若干厚くしておくのがコツ。
具材を詰めたら、あとは蒸すだけ。生地が膨らむため、おやきは隣同士が近づきすぎないように並べる。
信州のおやきは、昔から仏事と関わりがあり、お彼岸やお盆の時期のお供え物としてつくられてきた。このほかに、山間地ではお正月や大晦日におやきを食べる習慣が今も残っている。食づくりの体験に参加する際は、こういった食文化にも注目してみては?
このほかに、豊かな自然の中で行う燻製づくりや、青竹クーヘンづくりも見逃せない。屋外ならではの解放的な場所で調理する心地よさもさることながら、待ちに待った実食タイムはまさに至福のひととき。ゆったりと時間が流れるスローライフ気分を満喫したい人にぴったりだ。
シンプルながら奥が深い、上田紬の機織り体験。手先の器用さが完成品の出来映えを大きく左右する。
信州・上田の地には、約400年の歴史が息づく「上田紬」があることは先述のとおり。上田紬は、1975年に信州紬として国の伝統的工芸品に指定され、日本三大紬の一角として知られている。その魅力を肌で感じられるスポットを訪れれば、上田紬を日常生活に取り入れたくなる......かもしれない。
生糸を経糸(たていと)にし、真綿からつむいだ紬糸を緯糸(よこいと)にして織る上田紬。その特徴として、さらっとした手触りや独特な光沢感、生地の軽さ、丈夫さ、吸・放湿性の高さなどが挙げられる。また、工房ごとに色や柄などの個性を前面に出しているところも特筆すべきポイントだ。そんな職人たちの情熱が込められた上田紬が、どのようにしてつくられているのかを知るためには、実際にやってみるのがいちばん。
工房で上田紬の機織りを体験すると、職人の技術のすごさがよくわかる。横一列に固定された経糸は上下で互い違いになっており、そこへ緯糸を通したら、経糸の上下を交差させて、再び緯糸を通し、経糸を交差させて、緯糸を通す......主にこの繰り返しで少しずつ織っていく。作業そのものはシンプルだが、それゆえ完成品のクオリティには、その人の技量が顕著に表れる。
リズミカルに織ることができれば、時間を忘れて没頭してしまいそう。
「藤本つむぎ工房」の代表取締役・佐藤元政さんと唐澤さん。佐藤さんの軽妙なトークが体験者の心をつかむ。
それゆえ「機織りは難しそう......」と感じる人もいるかもしれない。それなら上田紬の独特な風合いを手軽に体感できる、着物レンタルを利用するのがおすすめ。粋なおしゃれ着の感覚で着用できるので、一度試せば上質な上田紬の虜に。
大自然に囲まれた馬術場で、馬の背に揺られる優雅な時間を。年齢や性別を問わず楽しめるのも乗馬の魅力だ。
グルメや伝統工芸のほかにも、上田市ならではの体験ができるスポットはまだまだある。そのひとつが、アクティブな非日常感を味わえる乗馬体験だ。
山の多い地形である上田での暮らしには、自動車が不可欠。この地形は今も昔もほぼ変わらないため、自動車のない時代には、それに代わる存在として馬が重宝されていた。たとえば山から切り出した材木を運ぶために馬の力を借りるといった具合に、馬と人が共存していた歴史がある。それを裏付けるかのように、馬のお墓「馬頭大士」が町中にちらほら。興味のある人は、ぜひチェックしてみてほしい。
たっぷり観光した一日の締め括りにうってつけなのが温泉。信州最古の温泉と呼ばれる別所温泉は、天然温泉と国宝や重要文化財などの歴史的建造物がある温泉街で、外湯(共同浴場)や足湯があちこちにある。
別所という地名の由来は「将軍塚」で有名な平維茂(たいらのこれもち)が、戸隠の鬼女「活鬼紅葉」の退治を北向観音に祈願し、退治に成功したため、この地に別荘を建てて別所と呼んだことから。
代表的な外湯は、真田幸村隠しの湯「石湯」、慈覚大師ゆかりの湯「大師湯(だいしゆ)」、木曽義仲ゆかり葵の湯~北条氏ゆかりの湯「大湯」の3つ。いずれも入浴料は150円とリーズナブルなのが嬉しい。複数の温泉をハシゴするのも、なかなか乙なものだ。
真田幸村が愛した石湯の外観。立派な佇まいに、思わず胸が高鳴る。
元々は葵の湯、のちに北条の湯とも呼ばれた大湯は、いつの時代も人々の憩いの場であり続けている。
知れば知るほど新たな興味が湧いてくる信州・上田。現代に数多く残る真田一族ゆかりのスポットや、この地の発展を支えた養蚕・製糸業の変遷を紐解く博物館を巡って、古き良き時代に思いを馳せるもよし。そば打ちやおやきづくりといったグルメや機織りなどの体験で旅の思い出をつくるのもよし。上田の過去と現在に触れ、思い思いの時間を過ごせば、日々の活力をもらえること間違いなしだ。
SPOT
藤本つむぎ工房
着物・反物のほか、ストール、トートバッグなども販売する。上田紬の機織り体験では、好きな色の緯糸を選んで、世界にひとつのオリジナル作品づくりにチャレンジ。完成した作品は、テーブルセンターや花瓶敷きに。
ゆたかや レンタきもの
(着物のゆたかや)
着物の販売に加え、上田紬の着物レンタルを行う。着物はもちろん帯にも上田紬を用いた、一日レンタルプランは手ぶらでもOK。着物姿で上田の町を散策すれば、記念撮影の写真映えはバッチリ。どのプランでも着付けは無料。
上田乗馬倶楽部
初心者・経験者を問わず、気軽に乗馬を楽しめる。本格的なビジターレッスンのほか、引き手とサイドウォーカーがつく引き馬体験なら、初めての人でも安心。馬の背に揺られる解放感は、日常生活では味わえない。
ゆきむら夢工房
真田エリアの観光案内所。そば打ちやおやきづくりなどの体験ができるほか、地元産の野菜や山菜などを販売する農産物直売所・新鮮市真田がある。また、電動アシストサイクルを無料で貸し出しており、真田地域を散策するのに便利。
やまぼうし自然学校
大人も楽しめる季節ごとの自然体験やイベントを開催。燻製づくりでは、サクラやナラなどの木を使い、食材の燻製に挑戦。バウムクーヘンづくりは、火おこしからスタートし、青竹の周囲に生地を塗って焼き上げる。
真田幸村隠しの湯「石湯」
別所温泉内に3ヶ所ある共同浴場のひとつ。各共同浴場ではタオル、バスタオル、シャンプーなどを販売しているので、手ぶらでも利用できる。建物の前にある票石の文字は、真田太平記の作者・池波正太郎の筆によるもの。
慈覚大師ゆかりの湯「大師湯」
天長2年(825年)、比叡山延暦寺の座主円仁慈覚大師が好んで入浴したことから、大師湯と名付けられた共同浴場。「籠の湯」「雉子湯」と呼ばれることもあるほか、重要文化財である禅師の木像にまつわる伝説も。
木曽義仲ゆかり葵の湯
~北条氏ゆかりの湯「大湯」〜
木曽義仲が、愛妾葵の御前と入浴していたことから「葵の湯」と呼ばれる。その後、北条義政が浴室を建て、「北条湯」とも呼ばれていたが、その溢れ出る湯の量の多さから、現在の「大湯」に改められたという歴史がある。