FOOD 旬の食材と日本の心 たまねぎ

日本人の食事において「たまねぎ」は幅広い料理で使われ、食べる機会の多い野菜である。
そして今、われわれの健康に寄与する食材として「たまねぎ」が見直されている。

「たまねぎ」は、世界各国の料理でも欠かすことのできない万能な野菜として親しまれている。日本でも多くの料理で使われる食材であることからキャベツに次いで購入量の多い野菜であり、1人当たりの年間購入量は、緩やかながら年々上昇している。近年では、生活習慣病予防に期待できる成分が含まれていることもあり、さらに人気の高まりをみせている。この古くから日本人に愛されている「たまねぎ」を、われわれはもっと知るべきだろう。

最初は観賞用だった!?

「たまねぎ」の歴史

「たまねぎ」の起源は古く、現在のイラン周辺の西アジアが原産(※諸説あり)とされているが、エジプトでは紀元前27〜25世紀には、すでに栽培されていた記録が残っている。当時、ピラミッド建設に従事していた労働者の食事として配給されていたというのだ。その後、「たまねぎ」はヨーロッパへと伝わり、16世紀にはアメリカ大陸へと渡って多くの品種が作られた。

だが、日本に「たまねぎ」が入ってきたのは意外と遅く、江戸時代になってからであった。当時、南蛮船によって長崎へ伝えられたものの、物珍しさからか食用ではなく観賞用にとどまったという。食用の「たまねぎ」が日本に入ってきて、栽培が始まったのは明治初期からであった。

まず、北海道開拓使がアメリカから持ち込み、札幌で試験栽培されたのが始まりだった。その後、クラーク博士に同行して札幌農学校の教官を務めていたW.P.ブルックス農学博士が栽培指導を行い、北海道に「たまねぎ」を根付かせた。その数年後には、大阪の農業人が神戸の外国人居留区に住むアメリカ人から「たまねぎ」の種子を手に入れて栽培を始めたのである。

現在、「たまねぎ」の栽培地は全国に広がっており、地域によって栽培時期が異なる。全国生産量の約5割強を占める北海道では春播き栽培が行われ、9月頃から市場へと出回るようになり、11月頃に旬の時期を迎える。一方、それ以外の他府県では秋播き栽培が行われているため、季節ごとに産地の異なる「たまねぎ」が販売されているが、一般的に春と秋が旬といわれている。

また、安価な外国産の輸入も多く、収穫後は長期間の保存がきくことから、1年を通じて市場に出回る「たまねぎ」は、今ではさまざまな料理の食材として食卓を彩っている。

「たまねぎ」に含まれる成分、その恵み

たまねぎ

「たまねぎ」に含まれる栄養成分で特筆すべきは、
動脈硬化といった血管の病気予防に期待できるアリシン様物質、
抗酸化作用によって老化予防を期待できるケルセチン類が豊富に含まれていることである。

アリシン様物質には、血液をサラサラにする効果に加え、善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らす働きがある。実は「たまねぎ」特有の臭いや辛みをもたらしているのが、このアリシン様物質なのである。

明治初期に日本に持ち込まれ、栽培が始まった「たまねぎ」だが、当初は馴染みのない外来野菜だったことに加え、あの独特な香りから敬遠され、食材としてなかなか定着しなかった。そんな「たまねぎ」が日本に定着した理由は、明治初期に関西で流行したコレラが関係しているという。

かつて、ヨーロッパで大流行し、多くの死者を出したコレラ。その致死率の高さは日本でも知られており『三日コロリ』などと呼ばれて恐れられていたのだ。その際、出どころは明らかではないが、『たまねぎがコレラに効く』という噂が人々の間で広まり、それまで敬遠されていた「たまねぎ」が大人気になったのである。

一度食べてしまえば、ネギに似た馴染みのある味わいだったことから、急速に家庭に普及し、食卓に欠かせない野菜の一つとなっていった。その後、日本人の食文化は多様化していったが、「たまねぎ」は和食にも洋食にも、中華料理にも合う万能の食材として常用野菜になったのである。

そして、健康志向が高まった現在では、「たまねぎ」に含まれる成分が、さまざまな病気の予防に効果が期待できると、ヘルシー野菜としての地位も確立した。

たまねぎ料理

「たまねぎ」の栄養をかしこく、おいしく
タマネギ

「たまねぎ」は、スライスして生で食べるオニオンサラダ、
油で揚げるオニオンリングフライといった素材単体の料理からカレーやシチューなど、
さまざまな料理や調理法に対応できる万能な野菜の一つである。

また、健康に寄与する有用成分を多く含んだ「たまねぎ」だが、調理法によっては成分が失われてしまうこともあるので、注意が必要だ。

まず、代表的な成分であるアリシン様物質は水に溶けやすい特徴があり、5分間水にさらすだけで50パーセントものアリシン様物質が失われてしまい、せっかくの栄養成分が流出してしまう。
その一方で、アリシン様物質はしっかり熱を加えると、血流改善効果が期待できる硫化プロペニルに変化しやすい性質を持っているため、加熱調理がおすすめだ。
ここでは、 「たまねぎ」の有用成分を極力活かしながら、調味料代わりやさまざまな料理に使える、本記事の監修者である料理研究家・村上祥子先生が開発した『たまねぎ氷Ⓡ』と『酢たまねぎ』をご紹介。どちらも作り方は簡単。

たまねぎ氷
たまねぎ氷
1
皮をむき、上側と根を切り落とした「たまねぎ」4個(正味1kg)を、十字に4つに切り耐熱容器に入れ、水1カップを注ぎふんわりとラップをし、電子レンジ(600W)で22分加熱。
※ラップで耐熱容器を閉じると、破裂するのでご注意ください。
2
耐熱容器にたまった汁ごとミキサーに移し、とろとろになるまで回したら、ふた付きの容器に移して冷蔵庫へ。
3
冷ましてから製氷皿に流し入れ、ふたをかぶせて冷凍する。
4
凍ったらバットに水をはり、製氷皿を付けて逆さにし、製氷皿をひねって氷を取り出す。
5
ジッパー付きの保存袋などに入れ、冷凍庫で保存する。約2ヶ月保存可能。
※凍らす前の『たまねぎ氷Ⓡのもと』の場合は、冷蔵庫で約10日間保存可能。

Point

『たまねぎ氷®︎』は冷凍庫から取り出してポンッと加えるだけ。加熱してあるので溶けやすく、他の食材ともよく混ざるので、「たまねぎ」のみじん切り代わりに。ハンバーグのタネやオムレツの卵液に混ぜて使用したり、煮物や汁物にそのまま入れる、あえ衣やたれ、ソースなどとしても使える。

酢たまねぎ
酢たまねぎ
1
皮をむき、スライサーで薄切り(包丁で薄切りにしても可)にした「たまねぎ」(500g)を、ふた付き容器に入れる。
2
鍋に、酢(150ml)・砂糖(60g)・水(50ml)・塩(小さじ1/2)を入れて火にかけ、煮立ったところで火を止め、スライスした「たまねぎ」が入った容器に注いだら常温まで冷まして、ふたをする。
3
30分後から食べることが可能。冷蔵することで酸味がまろやかになる。 冷蔵で1年間保存可能。
※アルミなど酸に弱い素材の鍋は使用しないでください。

Point

「たまねぎ」に含まれる抗酸化物質のケルセチン類、血流改善効果が期待できるアリシン様物質に加え、血圧の上昇を抑えたり疲労軽減効果のある「酢」をプラスすることで、さらに健康効果が高まる『酢たまねぎ』は、そのまま食べても良し、カレーのようなこってりした味の料理の付け合わせにしても最適。

「たまねぎ」は健康づくりのベースを支える

明治時代に日本に持ち込まれて以来、保存性の高さ、さまざまな料理に使える汎用性の高さから、家庭の常用野菜となった「たまねぎ」。近年では、人々の健康志向の高まりとともに、「たまねぎ」に含まれる有用成分に注目が集まり、新たな脚光を浴びている。
「健康は1日にしてならず」ではないが、日々の食事から体によい成分を無理なく摂るために、今一度「たまねぎ」を見直してみる必要があるかもしれない。

村上 祥子(むらかみ・さちこ)

料理研究家、管理栄養士。公立大学法人福岡女子大学客員教授。治療食の開発で、油控えめでも一人分でも短時間においしく管理できる電子レンジに着目。以来、研鑽を重ね、電子レンジ調理の第一人者となる。「ちゃんと食べてちゃんと生きる」をモットーに、日本国内はもとより、ヨーロッパ、アメリカ、中国、タイ、マレーシアなどでも「食べ力(ぢから)」をつけることへの提案と、実践的食育指導に情熱を注ぐ。自称、空飛ぶ料理研究家。食べることで体調がよくなる「たまねぎ」の機能性に着目。『たまねぎ氷®︎』を開発し、注目を集めている。

村上 祥子