毎日長時間のパソコン作業やデスクワークを強いられる現代において、頭痛に悩まされている方は多いのではないだろうか。頭痛にはさまざまな種類があるが、その中でもっとも多くの割合を占めているのが「緊張型頭痛」だ。今回はこの「緊張型頭痛」に焦点をあて、症状や原因をはじめ、セルフケアの方法や予防法について解説する。
頭痛は一般的に、一次性頭痛と二次性頭痛に分けられる。一次性頭痛は頭の中の異常を認めないタイプのもので、「緊張型頭痛」をはじめ片頭痛、群発頭痛などがこの一次性頭痛にあたる。一方の二次性頭痛は何かしらの器質的異常が原因で起こるもので、くも膜下出血や脳腫瘍など重篤な病気のサインである場合も考えられ、注意が必要な頭痛といえる。もし、今までに経験したことのない痛みや手足のしびれ、脱力などの症状を伴っている場合は、二次性頭痛の可能性もあるので一度検査を受けることをお勧めする。
一次性頭痛の日本における有病率は、片頭痛が人口の5〜10%、「緊張型頭痛」が人口の約20%であることが近年の疫学調査で報告されているという。つまり、日本人の約4人に1人が頭痛に悩まされていることになる。
なかでも多くの割合を占める「緊張型頭痛」(非拍動性)は、頭の両側をギューッと締めつけられるような圧迫感を伴う鈍い痛みが特徴だ。症状は必ず同じ性質・強さであらわれるとは限らないが、片頭痛(拍動性)のように階段の昇り降りといった日常的な動作でズキンズキンと拍動するように痛みが悪化したり、吐き気を感じたりすることは少ない。
「緊張型頭痛」は、文字通り筋肉の緊張が引き金となり発生するものであるが、その要因には身体的・精神的なストレスが複雑に関係していると考えられている。以下のような状況や症状があてはまる人は、「緊張型頭痛」の予備軍かもしれない。
・パソコンや机に向かう仕事、こんつめ作業が多い
・携帯電話やスマートフォンをよく使う
・冷え性だ
・ストレスを感じる
・首や肩がこりやすい
・目が疲れやすい
・日頃あまり体を動かしていない
・ストレートネックと言われたことがある
本記事の監修者である新宿溝口クリニックの青山尚樹先生によると、「緊張型頭痛」が発生する根本には、「外因的要素」と「内因的要素」の2つがあるという。外因的要素は姿勢(前屈姿勢)や冷え、目を酷使して使うことなど、内因的要素は「低血糖(血糖変動)」や「鉄欠乏」、ストレスや不眠などが挙げられる。これらの要素が自律神経の緊張による血流低下を引き起こし、首や肩の筋肉が緊張することで頭痛を引き起こしてしまうのだ。
「緊張型頭痛」には肩こりが関係しているという説が多い一方で、青山先生が指摘するのは首の後ろ(後頚部)にある頭を支える筋肉、「板状筋(ばんじょうきん)」をはじめ、「上部僧帽筋(じょうぶそうぼうきん)」、「後頭下筋群(こうとうかきんぐん)」のこりだ。
私たちは仕事や勉強、家事などで前屈姿勢をとることが多く、5〜6kgもの重さがある頭を支えている上記の筋群は、常に高い緊張状態を強いられている。実際、「緊張型頭痛」の人はそうでない人に比べ、首を伸展させるこれらの筋肉の力が弱いそうだ。また、首は大抵露出しており、ストールやマフラーを巻いたりタートルネックを着たりしない限り冷えやすい状態にある。特に夜間、就寝中などは顕著になる。後頚部を冷やすことは筋肉の血管を収縮させ、血行不良となり、筋肉のこり・緊張を高めてしまう。
さらに、長時間のデスクワーク、パソコン作業、読書の後などに首や肩のこりを感じる人も多いのではないだろうか。よく作業により「目が疲れる」と表現されるが、加えて眼鏡の度数が合わない、左右の視力が大きく違うなど、目のピント調節機能の不具合も首の筋肉の緊張をもたらすのだ。
では、内因的要素であり自律神経の緊張を引き起こす低血糖(血糖変動)と鉄欠乏とは、どのようなことか。通常、私たちの体は食事を通して得られた血糖(血液中のブドウ糖)をエネルギー源としており、血糖は常に安定しているのが理想だが、血糖が低下したり激しく変動したりすることでさまざまな問題を招く。一方の鉄欠乏は、体にとって大切な組織への酸素共有の低下をきたす鉄欠乏症貧血を招く。この2つに共通しているのは、自律神経を乱すことだ。低血糖(血糖変動)や鉄欠乏により、緊張やストレスなどを感じる交感神経が優位になり、日頃から負荷がかかっている首は慢性的に血流が低下した状態に。その結果、筋肉の緊張が増し頭痛を誘発することになる。
現代人は仕事が忙しく、ストレス環境の中で交感神経が優位になりやすい要因に囲まれている。さらに不規則な食事や栄養素不足も自律神経のバランスを乱す要因となることは、あまり認識されていない。
ここからは、日常生活で心がけたい「緊張型頭痛」の対処法や予防法を紹介する。
まず、痛みが出たらすぐに試してほしいのが首の後ろを温めること。温めることで緊張が取れ血管が少しずつ拡張し、血流がよくなる。温める道具として手軽なのが、電子レンジで温めて繰り返し使える市販のホットパックだろう。または、フェイスタオルを折りたたんで濡らし、電子レンジで1〜2分温めて使うのもOK。とにかく地道に温めることを繰り返せば筋肉の緊張がほぐれ、頭痛は起きにくくなっていく。
座り仕事が多い人は、30分ごとにストレッチをする、少し歩く、トイレに立つなど長時間座ったままで過ごさないことを心がけたい。姿勢は板状筋をはじめ後頚部の筋肉の緊張に最も影響する外因的要素であり、長時間の座位は姿勢の悪化を助長する。なお、よい姿勢を保つとストレスホルモンであるコルチゾールが減るといわれている。よい姿勢とは、側面から見て耳が肩の真上にあり、胸を張るように肩甲骨を後ろに引いた状態。デスクワーク時やスマートフォンを使用する際も意識してみてほしい。
食事面では、急激な血糖降下時や空腹時の低血糖が自律神経の緊張を高めるため、ポイントは血糖の変動をなるべく抑えることだ。特に食後の眠気を覚える人は血糖変動がみられている可能性がある。血糖の変動は摂取する糖質により助長されるため、炭水化物の重ね食べをできるだけ控えて、その分肉や魚、卵、納豆などのタンパク質を多めにとるといった心がけを意識したい。朝食を抜くなど食間が空くような状況は次の食後の血糖変動をきたしやすいため、欠食は避けてほしい。また、昼食などは短時間で糖質の多いものを摂取しやすい傾向にあり、その後ずっと座って仕事をすることは血糖変動につながりやすいため注意が必要である。
こうした食べ方と同時に、血流の改善や筋肉の状態をよくする栄養素をプラスすれば、より効果が得られる。頭痛予防に役立つ栄養素としては、体の酸欠を防いで血流をアップさせる鉄(レバー、牛肉、マグロ、ほうれん草、大豆、海藻類など)、筋肉の合成に欠かせない亜鉛(牡蠣、煮干し、するめ、ビーフジャーキーなど)、筋肉・血管の収縮を抑えるマグネシウム(ごま、アーモンド、海藻類など)、筋肉のこりや痛みを防ぐビタミンD(あん肝、しらす干し、イクラ、サケなど)などが挙げられる。
目の疲れやピント調整などの不調を緩和するという意味では、クロセチン(植物に含まれる黄色の天然色素)のほか、緑黄色野菜などに含まれるルテインやβ-カロテン、ブルーベリーやイチゴなどに含まれるアントシアニンを意識してとるのもいいだろう。
(参考文献)
『頭痛は「首」から治しなさい』(青春出版社 2017)、一般社団法人 日本頭痛学会ウェブサイト(http://www.jhsnet.org/index.html)など
青山 尚樹(あおやま・なおき)
1968年福島県生まれ。医学博士。1993年日本大学医学部卒業後、同大学脳神経外科に入局。UCLA Brain Injury Research Center 研究員、東十条病院脳神経外科医長、社会保険(現 JCHO)横浜中央病院脳神経外科部長などを経て、2011年より新宿溝口クリニックに勤務。脳神経外科的なアプローチに加え、栄養療法や鍼治療などを取り入れ、頭痛やめまいなどの治療にあたっている。著書に『頭痛は「首」から治しなさい』(青春出版社)、共著に『勉強したい人のための脳のしくみ』(日本実業出版社)がある。