日本人の国民病といわれるほど、多くの人が悩んでいる『肩こり』。症状がひどくなると頭痛を引き起こすなど、日常生活に支障をきたすことも。特に近年はパソコンやスマートフォンを長時間利用する人が増えたことで、『肩こり』を訴える人も以前より増加傾向にあるという。まさに、国民病であり現代病ともいえる『肩こり』の対処法をご紹介。
『肩こり』が日本人の国民病といわれる理由の一つに、日本人の体型の問題が関係しているという。
食生活や生活スタイルの欧米化で、日本人の体型も変化してきてはいるものの、欧米人に比べると頭が大きいわりに肩や首の筋肉があまり発達しておらず、なで肩の人が多い。そのため首から肩にかけての筋肉にかかる負担が大きくなり、『肩こり』になりやすいのである。
まず肉体的なハンデが前提にあり、さらに『肩こり』を助長させる直接的な原因が、筋肉疲労と血行不良の2つ。それを引き起こす要因はさまざまだが、一番の要因は長時間にわたって同じ姿勢をとり続けることにある。
デスクワークやパソコン作業、スマートフォンを長時間利用していると、同じ筋肉にばかり負担がかかるとともに血行不良となり、これが『肩こり』や腰痛を引き起こしてしまう。
日頃の自分の姿勢を思い返してもらうと納得いただけると思うが、デスクに向かっているうちに猫背になっていたり、足を組んだ不自然な体勢を続けてしまい、気づけば肩も腰もガチガチに...という状態になっていないだろうか。
また、パソコンやスマートフォンを長時間使用することが増え、それらにより眼精疲労を招くケースが多い。その結果、目のピント調整を行う筋肉の疲労を起こし、肩の筋肉にも影響を及ぼすケースも多発している。つまり、目の疲れが『肩こり』を悪化させる要因になっている。
そして最近、『肩こり』に関して新たな説が出ている。1年を通じて『肩こり』を訴える人がもっとも多くなるのは、11月だという。筋肉疲労と血行不良に加えて、気圧の変化が関係するというのである。
夏が終わり 秋や冬になり、天気がすぐれず曇りがちだったり、雨が降るなどで「なんだか体がだるくなる」とか「雨の日は、古傷が痛む」、その逆で「天気が良くなってくると体に痛みを感じる」というような経験をした人は少なくないはず。しかし、それはあくまで本人の感覚の問題でしかなく、「気のせい」で片付けられてはいなかっただろうか。
ところが、「天気と痛み」の関係が、医学博士の佐藤純氏によって科学的に証明され、そのメカニズムも明らかになり、天気(気圧や気温)の変化によって生じたり悪化したりする慢性の痛みは『天気痛』と名付けられた。
佐藤氏によると『天気痛』は病名ではなく、天気の影響を受けて生じたり、悪化したりする慢性の痛みがある状態を指すのだとか。そして、天気の影響を受けやすい慢性痛の一つに『肩こり』も含まれているのだ。ちなみに、『天気痛』が起きるメカニズムを簡潔に説明すると以下のような流れになる。
つまり、気圧が下がることで痛みが起きるのではなく、気圧の変化が影響を及ぼすのである。
『肩こり』は首周りの筋肉の緊張や血流不足が直接の原因となるが、それには交感神経が関わっているという。気圧や気温が変化することで交感神経が刺激され、血管が収縮することで痛みが発生する。また、慢性痛がある人の交感神経が気圧や気温の変化によって刺激された場合には、交感神経から痛みの神経に直接作用して『天気痛』が起きることもあるそうだ。このあたりが『天気痛』の複雑なところである。
なお、佐藤氏の研究によると『天気痛』のある人に共通しているのは、内耳の敏感さだという。内耳が微細な気圧の変化を感じ取り、それを脳に伝達してしまうことで交感神経の興奮を促すのではないかと考えられている。
『天気痛』が重度の場合は、専門のクリニックでの治療をおすすめするが、軽度の人に向けた、自分で簡単にできる改善のためのストレッチ法を紹介する。
※体の具合が悪かったり、体に痛みがある場合は無理をせず、その日の体調に合わせて行うこと。
※持病などにより、体調に不安がある方は、主治医に相談してから始めること。
顎の下と首の前の筋肉を伸ばす
ストレッチ
首と肩の筋肉の収縮を促す
ストレッチ
辛い『肩こり』を改善しようと整体や鍼灸院に行っても、それは一時しのぎに過ぎない。また、『肩こり』予防や改善のために日々の運動をすすめるケースが多々あるが、仕事が忙しく運動する時間が取れない、そもそも運動するのが好きではない、という人も少なくないのではないだろうか。その場合、日々の生活を見直して、無理なくできることで対処するしかない。
例えば、運動というほどではないが、仕事や家事の合間に、首をゆっくり回す、伸びをする、膝の屈伸をするなど、1時間に1回程度の割合で体をほぐす動きを行う。
デスクワークでパソコンを使用する時間が長い人は眼精疲労を起こしやすく、それが『肩こり』の原因にもなってしまうので、目の疲れを感じたなら60秒ほど目を閉じる。さらに効果を高めたいのなら、こめかみから目尻の延長線状のあたりを指の腹で押さえ、ゆっくりと円を描くようなマッサージを行う。
また、自宅で行える定番の『肩こり』予防&解消法といえば、毎日の入浴。シャワーだけで済ますのではなく、湯船に浸かって全身を温めることで血行が促され、汗と一緒に老廃物を流すことでストレス解消にもつながる。さらには、食事やサプリメントで筋肉疲労の解消を促す栄養素を積極的に摂ることも有効だ。
中でも、豚肉や酵母、豆類などに多く含まれているビタミンB1、カツオやマグロなどの魚類などに多く含まれているビタミンB6やビタミンB12は、筋肉疲労に効果的。血行促進が目的ならば、ナッツ類などの植物油に豊富に含まれるビタミンEを摂取するのが効果的である。
今現在、ひどい『肩こり』に悩まされているが、整体やマッサージを受けに行く時間がない。そんな人におすすめなのが、タオルを使った『肩こり』解消ストレッチ。タオル1枚あれば1人で行えるので、毎日無理なく続けられる。この"毎日続ける"ことが、ひどい『肩こり』の改善には重要なのだ。
※体の具合が悪かったり、体に痛みがある場合は無理をせず、その日の体調に合わせて行うこと。
※持病などにより、体調に不安がある方は、主治医に相談してから始めること。
首周りの筋肉をほぐす
背中の筋肉をほぐすストレッチ
肩周りの筋肉をほぐすストレッチ
佐藤 純(さとう・じゅん)
医師・医学博士、中部大学教授(愛知医科大学客員教授兼任)。名古屋大学と愛知医科大学で、24年間にわたって気圧医学を研究し、臨床に応用。天気が崩れると痛みが悪化したり、うつや体調不良になる気圧障害の原因に、内耳の「気圧センサー」が関与することを世界で初めて発見する。天気痛ドクターとして、テレビ・マスコミに多数出演。『天気痛 つらい痛み・不安の原因と治療方法』(光文社新書)など著書多数。