毎年冬に感染者が増大し猛威を振るう「インフルエンザ」だが、2019年は例年より2カ月ほど早く流行の兆しをみせているという。沖縄や九州では9月時点で「インフルエンザ」の患者数が急増し、夏休み明けから学級閉鎖が行われた小・中学校もあるほどだ。 この「インフルエンザ」の予防法の一つに、「ビフィズス菌」の摂取が有効であることはご存知だろうか。インフルエンザの基礎知識や一般的な予防法に加え、「ビフィズス菌」と「インフルエンザ」の関連性も紹介する。
2019年は2カ月ほど早いものの、通常は毎年12月〜翌年の2月にかけて流行のピークを迎える「インフルエンザ」。感染力が非常に強く、厚生労働省の調べによると、日本では毎年約1千万人=約10人に1人が感染しているという。
「インフルエンザ」の歴史には諸説あるが、いずれも古く、1933年にインフルエンザウイルスが発見される以前の時代においても、さまざまな文献に「インフルエンザ」を推測させる記述がある。文献上最初の「インフルエンザ」の症状と思われる記載は16世紀で、イギリス人医師のカイウスが発熱や頭痛、筋肉痛を伴う病気を「汗かき病」と記載しているそうだ。しかし、数千年の歴史をもつ中国の医学書『傷寒論』にも「インフルエンザ」らしき症状の記載があることから、もっと昔から存在していた、ともいえる。
現在日本で流行しているインフルエンザウイルスは、A型、B型、C型に大きく分けられ、毎年流行を引き起こす原因となるのがA型とB型だ。C型は感染しても症状は鼻水程度で、あまり悪化しないことが知られている。このような基本の型に加え、時々現れるのが新型インフルエンザウイルスで、2009年にメキシコで確認され、多くの人々が免疫をもっていなかったことで世界的に大流行したことは記憶に新しい。
「風邪かと思ったらインフルエンザだった」ということがあるが、風邪と「インフルエンザ」では症状もかなり異なる。風邪はさまざまな菌やウイルスによって起こる急性の上気道(鼻孔、咽頭、喉頭)の炎症で、「インフルエンザ」はインフルエンザウイルスが鼻咽喉より侵入し、上気道で感染したあとに下気道(気管、主気管支、肺)に向かって進展し発症する急性の呼吸器感染症である。風邪の多くは喉の痛み、鼻水、くしゃみや咳などの症状が中心で、発熱してもそれほど高くない。一方、「インフルエンザ」は40℃近い高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠感などの全身症状が比較的急速に現れるのが特徴で、肺炎を合併するなど重症に至るケースも少なくない。ただし、インフルエンザB型の場合は微熱程度で高熱を伴わない場合もある。
「インフルエンザ」には、二つの感染経路がある。一つは感染者が咳をすることで、その飛沫に含まれるウイルスを口や鼻から吸い込んでしまう「飛沫感染」。二つ目は、感染者が咳やくしゃみを押さえた手でドアノブやスイッチなどに触れた場合、そこに別の人が触れることで、手から口や鼻の粘膜を通じてウイルスが体内に侵入する「接触感染」だ。この二つの経路を断つことが予防につながる。うがいや手洗い、マスクの着用に加え、換気なども自分でできる一般的な予防法となるが、いずれも正しく行うことが重要となる。以下に予防のポイントをまとめた。
上記のような予防法のほかに、「ビフィズス菌」の摂取も「インフルエンザ」の感染予防には有効である。「インフルエンザ」の感染予防には、他のウイルス感染症と同様に免疫力を高めることが重要だ。
「ビフィズス菌」は人間の主に大腸に棲息する代表的な善玉菌で、腸内環境改善機能、免疫調節機能、生活習慣病予防機能、メンタルヘルス機能といった大きく4つの保健機能をもつとされている。このうちの免疫調節機能、つまり免疫力強化作用がインフルエンザの感染予防に有効な働きをすることが、2009年に元・信州大学大学院農学研究科の保井久子教授らが行った実験で明らかになった。
「ビフィズス菌」の菌体をマウスに3日間摂取した後でインフルエンザウイルスを感染させたところ、ビフィズス菌を摂取していないマウス群に比べ、「インフルエンザ」の発症率が軽減した。
このことからわかるように、大腸内に「ビフィズス菌」のような善玉菌が多いと免疫力が高まり、大腸内の善玉菌を増やし、大腸環境を健康に保つことが「インフルエンザ」の予防につながるのだ。そのため、「ビフィズス菌」のエネルギー源となるオリゴ糖を含む食物をうまくとることで、大腸内の「ビフィズス菌」を効率よく増やすことができる。例えば大豆やゴボウ、アスパラガス、タマネギ、ニンニク、バナナなどがオリゴ糖を多く含む食材となる。このほか肉や魚、卵、牛乳などのタンパク質を多く含む食材をとることも、免疫力を高めるのに有効とされている。また、日常の中で手軽に「ビフィズス菌」を取り入れたいなら、サプリメントの摂取もおすすめだ。
ただし、上記に挙げた食材やサプリメントをとってすぐに効果が期待できるわけではない。最低でも「インフルエンザ」が流行する1カ月ほど前から継続することが望ましい。また、睡眠不足といった生活習慣の乱れ、精神的なストレスなども免疫力低下の大きな原因になってしまうことから、日頃の食事や規則正しい生活への心がけこそが免疫力を高めることにつながり、ひいてはインフルエンザ対策に重要となるのだ。
毎年どんなに気をつけても、予防をしていても「インフルエンザ」にかかることはある。そんな時は自分の体を守るためだけではなく、ほかの人にうつさないためにも早めに対処することが何より肝心だ。「おかしいな?」と感じた場合は、早めに医療機関を受診しよう。
(参考文献)
『あなたの知らない乳酸菌力』(小学館 2011)、『人の健康は腸内細菌で決まる!』(技術評論社 2011)、『免疫力を高めて病気に負けないレシピ』(主婦の友社 2016)、『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』(ベスト新書 2018)、原著論文『BB536の鼻腔内投与がマウスの気道の粘膜免疫とインフルエンザウイルスの感染に及ぼす影響』、厚生労働省HP インフルエンザ(総合ページ) など
保井 久子(やすい・ひさこ)
農学博士。厚生労働省国立感染症研究所協力研究員、信州大学教授、日本乳酸菌学会理事などを経て、現・公益財団法人日本乳業技術協会監事。乳酸菌・ビフィズス菌に代表されるプロバイオティクスには免疫力を高め、ウイルス疾患であるロタウイルス下痢症やインフルエンザを予防・軽減するのに有効な働きがあることを解明したほか、長野県木曽地方の伝統漬け物「すんき」からアレルギー症状の緩和に有効な乳酸菌を発見。乳酸菌研究の第一人者として知られる。