教えてドクター!肌荒れ

春先は、寒暖差や環境の変化などによるストレスで、「肌荒れ」を起こしやすい時季。かぶれや吹き出物などさまざまな症状として現れる「肌荒れ」だが、健康な肌を保つための何よりの基本は、保湿力を高めることだ。肌トラブルで悩まされていたら、トラブルを引き起こす原因を知ったうえで、ここで紹介する対策を参考にしてほしい。

「肌荒れ」を起こしやすい春先。肌トラブルはなぜ起こる?
「肌荒れ」を起こしやすい春先。肌トラブルはなぜ起こる?

季節の変わり目の中でも、春先は「肌荒れ」を起こしやすい時季。冬の寒さと乾燥で肌のバリア機能が低下しているところに、徐々に強くなる紫外線、花粉症の人は刺激性物質で抗菌加工された使い捨てマスクの着用、環境の変化によるストレスなどが重なり、肌がダメージを受けやすくなるのだ。もしマスクによる肌荒れで悩んでいたら、肌に優しい綿100%の洗えるマスクに変えてみるだけでも肌荒れが防げるかもしれない。

私たちの皮膚は、「表皮」「真皮(しんぴ)」「皮下(ひか)組織」の大きく3層構造になっている。外界と接する部分の表皮、その内側にある真皮がいわゆる一般にイメージする皮膚で、真皮の下は皮下組織(皮下脂肪)となる。さらに表皮は4つの層に分かれ、いちばん上の層が皮脂やアミノ酸、尿素などで形成された「角質層」で、これを「皮脂膜」が覆っている。健康な皮膚は、表皮と真皮の2つがあって初めて成り立つ。表皮では「皮膚のターンオーバー(新陳代謝)」が行われ、28〜42日周期で細胞が入れ替わり、常に新しい皮膚に生まれ変わっているのだ。また、皮膚の土台ともいうべき真皮では、コラーゲンやエラスチンといった組織が肌のハリや弾力を保っている。

では、皮膚にはどのような機能があるのか。本記事の監修者である菊池新先生によると、皮膚には次の5つの役割があるという。

① 体の表面を覆い、体内の水分が漏れないよう体を守る物理的バリア

② 外部からの刺激を防壁として受け止め、有害無害を振り分ける免疫的バリア

③ 痛みや痒みなどを脳に伝える感覚器としての役割

④ 汗や皮脂、塩分や老廃物を排出し、体温調節を行う分泌作用

⑤ 日光を浴びてビタミンDを合成する機能

このうち、皮膚の健康を考えるうえで重要なのが①と②で、一般的にいう「皮膚(肌)のバリア機能」とはこの2つを指す。①の水分の蒸散を防ぐとは、言い換えれば「保湿」のこと。保湿はもっぱら角質層で行われるが、空気の乾燥などで角質層の水分が失われると、ひびが入ってめくれたり剥がれたりしてしまう。つまり、角質層が剥がれて皮膚が外からの刺激を受けやすくなることで、肌トラブルにつながるのだ。保湿は健康な肌を保つための基本、ということにほかならない。

さまざまな悩みとして現れる「肌荒れ」
さまざまな悩みとして現れる「肌荒れ」

肌荒れの症状にはさまざまなものがあるが、代表的なものをいくつか挙げてみよう。

カサつき

空気の乾燥や気温の低下などが原因で皮膚の毛細血管が収縮し、皮膚の潤いを保つ汗や皮脂といった天然保湿成分の分泌が少なくなる。そのため皮膚の乾燥が進み、カサつきや痒みなどの症状に発展する。痒みがある時の応急処置は冷やすこと。保冷剤をタオルでくるんで患部に当てるだけでも、痒みは和らぐはずだ。

かぶれ

かぶれは湿疹の一種で、外界からの刺激で皮膚にアレルギー性の炎症が起きることだ。原因となる刺激はさまざまで、洗剤や化粧品、整髪料、ゴム製品や金属製品、食べ物など限りなくある。炎症反応も、カサつき同様にまずは冷やすのが基本。特にこの時季、花粉症の人は抗菌加工されたマスクを頻繁に着用することでかぶれるケースも多いため、昔ながらの綿素材のマスクに替えてみるのも一つの手だ。

毛穴の黒ずみ・
開き

皮脂腺から分泌されるネバネバとした脂が詰まり、そこに外部からの汚れが付着すると毛穴が黒ずんで見える。毛穴が開くのは、皮脂が皮膚の表面まで出られず、詰まった揚げ句に皮脂腺が肥大するためだ。指や爪で押して無理やり取るのはバイ菌が入り兼ねないため禁物。健全な皮脂膜をつくるために、ビタミンB2とB6を長期的に摂取したい(後述)。

ニキビ・
吹き出物

ニキビができるのは毛穴に脂が詰まり、そこに毛髪が触れたり汗が付くなどして細菌が繁殖するためだ。吹き出物とはまだ膿をもっていないニキビのでき始めのことで、毛穴に一致してブツブツとできる。健康な皮膚では脂はサラサラだが、B群のビタミンが不足するとネバネバになり毛穴の途中で詰まってしまう。

日焼け

特に日光アレルギーのある人は、紫外線に当たると赤みや痒みが出ることも。紫外線はシミやシワといった老化の原因にもつながるため、日焼け止めを塗るか、日焼け止めにかぶれる人は帽子やサングラス、日傘などで物理的に遮光しよう。

カミソリ負け

男性の日課である髭剃りは、髭と一緒に角質層と皮脂膜も剥ぎ取ることになり、壊れたバリアに化学物質が接触するとかぶれやアレルギーを起こしてしまう。同じところを繰り返し剃ることや逆剃りは厳禁。カミソリはよく切れるものを使い、刃はこまめに交換すること。剃り終わったらワセリンや保湿剤を薄くのばし、角質を保護するといいだろう。

肌トラブルの改善には保湿に加え内側からの対策も
肌トラブルの改善には保湿に加え内側からの対策も

健康な肌を保つための対策としてまず重要なのは、保湿力を高めることである。保湿対策として手軽にできることは「洗いすぎない」こと。界面活性剤の多い石鹸や洗顔、ボディソープなどで顔や体を擦りすぎると皮脂膜の脂が失われ、その下にある細胞間脂質のセラミドも剥き出しになり溶け出してしまう。皮脂膜と細胞間脂質がなくなった結果、皮膚が水分をため込む力、つまり保湿力は大きく落ち込む。最近の研究から、皮脂膜には腸と同じように善玉菌や悪玉菌、日和見菌といった常在菌の叢(フローラ)があり、皮膚の健康維持に重要な役割を果たすことが分かっている。皮脂膜が奪われれば、大切な常在菌まで落としてしまうのだ。

それと合わせて大切なのが、菊池先生も長年実践しているというビタミンB2とB6の継続的な摂取。これらのビタミンは皮脂腺から出る皮脂をサラサラにして、良質な皮脂をつくる。皮脂がサラサラになれば毛穴に詰まることなく皮膚表面へ出やすくなり、よい皮脂膜ができて肌にツヤが出る。アミノ酸などの天然保湿因子は内側からアミノ酸の質をよくする=栄養バランスのよい食事で取り入れることが理想だ。ビタミンB2が豊富な食品として、牛・豚・鶏のレバー、海藻、サバなどの青魚、鰻、納豆、卵、牛乳、チーズなどが挙げられる。ビタミンB6はニンニク、バナナ、鶏のササミ、マグロ、カツオ、牛・豚・鶏のレバーなどに含まれる。なお、体内のビタミンを壊さないためには、寝不足にならない、不規則な生活をしない、深酒やタバコを控えるといった生活習慣改善への心がけも忘れずに。

納豆

また、健康や美容によいとされ、私たちが生きるために必要なエネルギーをつくるのに欠かせない物質、コエンザイムQ10の摂取もお勧めだ。コエンザイムQ10はビタミン類をサポートすることで効果を発揮し、抗酸化作用により若々しい肌を保つのに役立つ。エネルギーを必要とする皮膚のターンオーバーのサイクルを促進させる、すなわち健康な肌を保つためにもコエンザイムQ10は大切といえるだろう。コエンザイムQ10は、青魚や牛・豚などの肉類、ピーナッツ、オリーブオイル、ブロッコリーなどに多く含まれる。

適度な運動

さらに、適度な運動はストレス軽減という面からも皮膚によい効果をもたらす。ストレスは交感神経を興奮させ、免疫細胞のバランスを崩し、老化を促す活性酸素をもつくり出す。現代人はストレスの原因そのものを取り除くことは難しいかもしれないが、ウォーキング、ジョギングなど手軽にできる有酸素運動を習慣化して、ストレスをうまくコントロールしたい。日頃から運動して汗をかいていれば、適度な皮脂膜がつくられ、乾燥を防ぎ善玉菌優位の皮膚環境をつくることができるのだ。

「肌荒れ」に効くツボ

最後に、「肌荒れ」に効くツボを紹介する。肌トラブル改善には、大腸の経路上のツボを刺激しよう。腸壁に熱がこもると肌が荒れやすいといわれているため、経路上のツボを刺激することで熱を除去する。特に「合谷(ごうとく)」と「手三里(てさんり)」は、主に顔の肌荒れ改善に有効とされる。「合谷」は手の甲側、親指と人差し指の間にある水かきの上、やや人差し指寄りにあるツボ。「手三里」は、肘を曲げて腕を体の前で水平にした時にいちばん高く膨らんでいるところだ。

「肌荒れ」に効くツボ

押し方

合谷:押して通圧を感じる場所が合谷に当たる。反対側の親指と4本の指で挟み、指先でつまむように刺激する。

合谷

手三里:押したい側の肘をまっすぐに伸ばし反対側の手で肘を支え持ち、親指の腹で筋肉に対して垂直に押す。

手三里
皮膚は内臓を映す鏡
皮膚と腸は、実は"相棒"ともいえる強い関係で結びついている。肌が荒れている時はたいていおならや便が臭くはないだろうか。それは腸内環境が悪化して悪玉菌が増えている証拠なので、肌に何らかのトラブルがある時には、生活習慣や食事が腸内環境を悪化させていないか見直すことも重要といえる。発酵食品や食物繊維を積極的にとることで腸内環境は改善できる。皮膚のいいところはほかの臓器と違い、自分の目で見てチェックできる健康のバロメーターになることだ。ぜひ毎日のチェックを心がけるとともに、不安を感じる時は自己判断せず、信頼できる医師の診断を受けることも忘れないでほしい。

(参考文献)
『なぜ皮膚はかゆくなるのか』(PHP新書 2014)、『皮膚・肌の悩みは「原因治療」で治せます』(さくら舎 2018)、『最新版 体のツボの大地図帖』(マガジンハウス 2020)など

菊池 新(きくち・あらた)

医学博士。日本皮膚科学会認定専門医・指導医。菊池皮膚科医院院長。1987年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部皮膚科助手、皮膚科学教室医局長などを歴任後、1996年アメリカ国立衛生研究所(NIH)へ留学。1998年の帰国後に東京・日暮里に菊池皮膚科医院を開設。最先端の治療に裏打ちされた治療は高い評価を受け、1日150人超の患者が全国から訪れる。著書に『アトピーはもう難病じゃない』(現代書林)、『なぜ皮膚はかゆくなるのか』(PHP新書)、『皮膚・肌の悩みは「原因治療」で治せます』(さくら舎)ほか。

菊池 新