元気 UP講座 健康維持に期待 コエンザイムQ10

監修:岡本 正志 先生
(神戸学院大学大学院薬学研究科長 神戸学院大学薬学部教授)

いつまでも健康でイキイキとした毎日を過ごすためには、
加齢などによる身体機能の低下を抑えるとともに、
健康な体を維持しアクティブに体を動かすための十分なエネルギーをつくり出すことが必要だ。

今回は、その両方に役立つといわれているコエンザイムQ10について、
働きや効率的な摂取の仕方などを聞いた。

健康維持や老化防止に期待

健康に生きていくのに
欠かせない大切な物質

コエンザイムQ10は、どのような働きを
持っているのでしょうか。

岡本私たちの体は、数十兆個にものぼる細胞から成り立っています。一つ一つの細胞の中にはミトコンドリアと呼ばれる小器官があって、そこでは私たちが生きていくために必要なエネルギーがつくり出されています。このときに欠かせない物質がコエンザイムQ10です。

ミトコンドリアでのエネルギー産生量は、私たちの体が必要としている全エネルギー量の95%にものぼります。特にエネルギーが必要な骨格筋や心臓、肝臓、腎臓、脳などの臓器にはミトコンドリアが多く、コエンザイムQ10も多く存在しています。

もしコエンザイムQ10が不足してエネルギーが十分につくられなくなると、例えば心臓であれば心筋の働きが低下し、息切れや動悸といった症状が出ることがあります。

私たちが健康に生きていくために欠かせない物質なのですね。

岡本そうですね。エネルギーがないと、我々は生きていくことができませんから。コエンザイムQ10の作用はビタミンとよく似ているので「ビタミン様物質」とも呼ばれるのですが、体内で十分な量をつくることができないビタミンに対して、コエンザイムQ10は私たちの体内でもつくられています。
しかし、体内でつくり出されるコエンザイムQ10の量は、20歳頃を境にどんどん減少してしまいます。高齢になるほどコエンザイムQ10は不足気味となり、臓器や器官の働きが弱まって病気につながりやすくなるともいえます。

エネルギーは、激しい運動をすると多く使われるのですよね。

岡本もちろんそうです。一般の方が軽く運動するくらいなら、体内でつくられる分と食事で摂れる分のコエンザイムQ10があれば十分だと思いますが、マラソンなどの激しい有酸素運動をしている方や、重労働をしている方、ずっと立ちっぱなしのお仕事の方などは、コエンザイムQ10を補うことで、疲れにくさなどに差が出てくるかなと思います。

コエンザイムQ10には、エネルギー産生をサポートする作用のほかにもう一つ、高い抗酸化作用があることが知られています。
私たちが酸素を消費すると、毒性の強い活性酸素が出てきます。本来は体内の酵素が無毒化してくれるのですが、有酸素運動のように大量の酸素を消費した場合、活性酸素が急激に増えてしまい、細胞が酸化、つまり錆びついてしまうのです。そうなると体のパフォーマンスは落ちますし、臓器や器官に悪影響を及ぼして老化や病気につながります。

コエンザイムQ10には強力な抗酸化作用があり、活性酸素の酸化ストレスから体を守ってくれます。
エネルギー産生をサポートする作用と抗酸化作用の両方を持つ物質はコエンザイムQ10だけですから、多くのエネルギーを使い活性酸素も増えてしまう有酸素運動を行うアスリートなどは、コエンザイムQ10をうまく活用するとよいと思います。

抗酸化作用があるということは美容にも良いのでしょうか。

岡本コエンザイムQ10の抗酸化力は、強い抗酸化作用を持つビタミンEやビタミンCをサポートすることで発揮されることがわかっています。ですから、紫外線が非常に強い夏場などには良いでしょうね。
目の病気である白内障は老化や紫外線などによる酸化ストレスが原因で水晶体が濁ってしまう病気ですが、動物実験でコエンザイムQ10によって濁りが抑えられることが確かめられています。

皮膚についてはまだわかっていることは少ないものの、私たちの研究室の実験では興味深い結果が出ています。人の皮膚のコラーゲンをつくる細胞を培養してコエンザイムQ10を加えたところ、ある種のコラーゲンが増加したんです。これは抗酸化というよりも、エネルギーが増えて細胞が元気になったということだと思います。

新しい細胞が生まれ古い細胞と入れ替わるにもエネルギーが必要ですので、エネルギーを生み出す能力を維持・向上させるコエンザイムQ10は美容にも大切だと思います。

コエンザイムQ10の2つの作用

コエンザイムQ10の2つの作用

効率よく摂るなら
食後に飲むのが良い

コエンザイムQ10を効率よく摂るにはどうしたらよいでしょうか。

岡本これまでのさまざまな研究により、健康の維持や老化防止を期待するなら、1日に30~120㎎のコエンザイムQ10を摂るとよいといわれています。コエンザイムQ10は、イワシやサバなどの青魚や、牛や豚などの肉類、ピーナッツ、オリーブオイル、ブロッコリーなどに多く含まれていますが、通常の食事で摂れる量は5㎎程度。仮に120㎎のコエンザイムQ10を、比較的含有量の多いイワシだけで摂ると考えると、20匹以上を食べなければいけない計算になります。サプリメントなどで補うのが効率的でしょうね。

ここで問題になるのが、体への吸収率です。コエンザイムQ10は脂溶性の物質なので、そのままでは水に溶けにくく、体に吸収されにくいんです。
このため、朝起きてすぐなどの空腹時よりも、食事の油分と一緒に吸収される食後に摂るほうが、吸収率が高くおすすめです。
ただ、製剤化技術の発展にともなって、空腹時でも吸収率が高まるよう工夫されたコエンザイムQ10なども販売されているようですね。

摂取する量が多いほうが、健康や美容に良い効果を期待できるのでしょうか。

岡本血中濃度だけでいえば、30㎎を摂取するより100㎎を摂取したときのほうが、上がり方は早いと思います。ただ、1週間程続けて飲むと血中濃度は上限に達して、それ以上は上がりません。
また、コエンザイムQ10は、比較的長く体内にとどまる物質ですが、摂るのをやめると1週間程度で元の血中濃度に戻ることがわかっています。活力あふれる毎日をサポートしてくれることを期待するなら、たくさんの量を摂ることよりも、長く継続して摂ることを意識したいですね。

最近、酸化型と還元型というのも耳にします。

岡本ある物質が酸素と結びつくことを「酸化」といい、反対に酸素を奪われることを「還元」といいます。コエンザイムQ10は酸化型なのですが、体内に入ると酵素の働きによって一部が還元型に変化します。血液中のコエンザイムQ10を測ると、90%以上が還元型です。それで還元型が良いようにいわれることもあるのですが、実は酸化型と還元型の比率は臓器によって違うんです。

肝臓では還元型が60%ぐらい。心臓や骨格筋に含まれるのはほとんどが酸化型です。それぞれの臓器で適切な比率を保つよう酵素が働いているんですね。この酵素の働きが加齢などによって極端に落ちるという報告はありませんから、結局、酸化型と還元型のどちらを摂っても同じことだといえます。

コエンザイムQ10が多く含まれる食品

コエンザイムQ10が多く含まれる食品

正しい知識を持って
しっかりと見極めてほしい

岡本先生がコエンザイムQ10の研究を始められて、どれくらいになりますか?

岡本大学4年生の時に研究室に配属されてからですから、40年以上ですね。苦節40年(笑)。博士号を取った後、コエンザイムQ10の化学構造を決定したコエンザイムQ10研究の権威であるアメリカ州立テキサス大学生物医学研究所のフォーカース博士のところに2年半ぐらい留学しました。それは本当に良い勉強になりましたね。その頃は、コエンザイムQ10は医薬品として認可されているだけで、健康食品には利用できませんでした。認可されたのは2001年のことですね。

私も、疲れたなと感じるときや、気合を入れて論文を仕上げなきゃいけないなんてときには、コエンザイムQ10を集中的に飲んでいます。いちばん必要だと思われるときに血中の濃度をピークにしておかないといけないわけですから、4~5日前から飲み始めて、終わってからも2~3日は飲みます。あとはお酒を飲んだ後。どうしてかははっきりわからないんですけど、次の日がラクなんですよね。いつかコエンザイムQ10とアルコール代謝との関係について研究してみたいですね(笑)。

先生は研究のかたわら、コエンザイムQ10について確かな情報を伝える活動もされていますね。

岡本そうですね。一般の方に対しては、コエンザイムQ10に限らず「薬と健康食品」とか「健康食品の落とし穴」などのテーマでお話しすることも多いです。調べてみると、コエンザイムQ10が配合されているというサプリメントの中には、水にも油にも溶けないようなものもあるんです。溶けなければ、成分が入っていたとしても体に吸収されることはありません。腸を通過して、そのまま体の外に出てしまう。でも、医薬品と違って取り締まる法律はないんです。これでは、せっかく健康や美容のために高い意識を持っていても意味がありませんよね。情報も製品も、正しい知識を持って、きちんと見極めることが大切だと思います。

ポイント

  • ●2つの作用で健康・美容をサポート
  • ●生命維持に欠かせないエネルギー産生に不可欠
  • ●体に吸収されやすい食後に摂るのがおすすめ
  • ●高い抗酸化作用で活性酸素から体を守る
  • ●酸化型・還元型、どちらを摂っても体内での割合に変化なし

毎日の活力のためには
継続することが大切!!

神戸学院大学大学院
薬学研究科長
神戸学院大学薬学部教授

岡本 正志(おかもとただし)先生

神戸学院大学在学中から40年以上にわたりコエンザイムQ10を研究。コエンザイムQ10研究の権威である。
米国フォーカース博士にも師事。研究のかたわら、薬や健康食品についての正しい知識や情報を広めるため講演会なども行っている。書道家としても活躍。

岡本 正志先生