ブロッコリー

FOOD 旬の食材と日本の心 ブロッコリー

11月〜3月頃に旬を迎え、まさに今が食べごろの「ブロッコリー」。ビタミンCやβカロテン、ミネラルなどを豊富に含む栄養価の高い野菜として知られるが、近年、植物由来の抗酸化成分であるファイトケミカルの一種、スルフォラファンを含んでいることが明らかになり、さらに需要が増えている。食卓を彩る鮮やかなグリーンが魅力で、どんな食材とも合わせやすい「ブロッコリー」。その歴史や栄養素、おすすめの食べ方までを紹介する。

ルーツは紀元前。古くから食べられてきた「ブロッコリー」

「ブロッコリー」はキャベツや大根、白菜などと同じアブラナ科の野菜で、「ブロッコリー」という名前の由来は諸説あるが、ラテン語の「枝(brachium)」や「花・芽・茎(brocco)」などが語源とされている。なかでもキャベツとは近い種類で、地中海沿岸のクレタ島に自生していたケールが栽培化されたものが「ブロッコリー」という説が有力だ。ケールの栽培は紀元前から行われ、品種改良が進むなかで葉が硬く巻き込むようになったものがキャベツ、そして蕾が大きく育ったものが「ブロッコリー」というわけだ。

2世紀頃には「ブロッコリー」はすでにつくられていたものの、ヨーロッパで広く食べられるようになったのは18〜19世紀頃と比較的新しい。日本に入ってきたのは海外文化を積極的に取り入れようとする動きのあった明治時代初期であるが、当時の人々にはなかなか受け入れられず、主に観賞用にとどまった。第二次世界大戦後には日本でも徐々に栽培されはじめたが、一般の食卓向けに本格的につくられるようになったのは1965年以降である。

もともと食用として日本で広まったのは、同じくキャベツの変種で同時期に日本に入ってきたカリフラワーの方が先だった。サラダに入れる食材として、白い花蕾が好まれたそうだ。ところが1980年代に入り、緑黄色野菜の重要性が一気に高まるなかで、調理しやすい上にクセがなく食べやすい野菜として「ブロッコリー」が注目されるようになったのだ。

私たちが普段食べているのは、小さな蕾がギュッと集まった「花蕾(からい)」と呼ばれる蕾の部分と、茎の部分。このモコっとした形の一般的な「ブロッコリー」から派生して、品種改良によりさまざまな種類が生まれている。なかでも細長い茎の先に小さな蕾が固まって付く「茎ブロッコリー」(別名「スティックセニョール」)や、発芽してすぐの新芽「ブロッコリースプラウト」などはスーパーマーケットでもよく見かけるようになった。特に「茎ブロッコリー」は小房に分ける手間が省けること、茎も柔らかくおいしいとあって人気の品種だ。一方、冬に出回るもので花蕾が紫色を帯びた「パープルブロッコリー」と呼ばれるものがあるが、これは寒さから身を守るためアントシアニンという色素成分がつくられたためで、やや甘みが強いのが特徴。茹でればきれいな緑色になる。

また、「ブロッコリー」は涼しい気候を好むことから、秋から冬にかけては埼玉県や愛知県で、夏場は北海道で主に栽培されている。「ブロッコリー」には、先端の花蕾を収穫した後も伸びてくるわき芽に花蕾ができ、さらにわき芽がよく伸びていればそのわき芽にもまた花蕾ができるという特徴がある。そのため1株で何度も収穫を楽しめる野菜として、家庭菜園にも向いている。

毎日の生活に取り入れたい緑黄色野菜のサラブレッド

ブロッコリー

「ブロッコリー」は栄養素密度のバランスがよく、
さらに高水準で含んでいることから、しばしば"野菜の王様"などと呼ばれる。

まず、「ブロッコリー」の栄養的魅力はなんといっても、ビタミンCとβカロテンという抗酸化作用をもつ2つの重要なビタミンを多く含んでいることだ。特にビタミンCは100g中に120mgも含まれ、これはイチゴの約2倍、レモン果汁の約2.4倍と身近な野菜のなかでも群を抜いて多い。「ブロッコリー」1/3株(約80g)で、成人が1日に必要なビタミンCをとることができるといわれている。ビタミンCには免疫力アップやシミ・そばかすを予防する美肌づくりに加え、ストレスから体を守るといった効果も。体内のビタミンCはストレスや喫煙で大量に消費されるため、十分にとることを心がけたい。βカロテンは100g中約800μg含まれ、一度に食べられる量、食べやすさの点からみても優れた供給源といえるだろう。

このほか、体内の余分な塩分を排泄して血圧をコントロールするカリウム、動脈硬化のリスクを軽減したり、貧血の予防にも有効な葉酸、血糖値を下げるインスリンの作用を高めるクロムといったミネラルも豊富に含まれるほか、脂質や糖質の代謝に関与するビタミンB2、生活習慣病の予防に有効な食物繊維を多く含んでいるのもうれしい。

また、「ブロッコリー」はコエンザイムQ10を多く含む食材でもある。コエンザイムQ10は体内でエネルギーをつくり出すために欠かせない成分で、心臓からの血液循環を促したり、筋肉にエネルギーを供給して持久力や運動能力を高める働きがある。もしコエンザイムQ10が不足してエネルギーが十分につくられなくなると、例えば心臓であれば心筋の働きが低下し、息切れや動悸といった症状が出ることも。このほかコエンザイムQ10には、高い抗酸化作用もある。体内での量が年齢とともに減少するため、こうした食材から積極的に補いたい。

さらには、ファイトケミカルの存在も見逃せない。ファイトケミカルは植物がもつ抗酸化作用のことで、「ブロッコリー」にはさまざまなファイトケミカルが含まれている。例えばポリフェノールの仲間で、血液をサラサラにして動脈硬化の予防作用が期待できるケルセチン。また、目の健康を維持する働きのあるルテインも、パソコンやスマートフォンと切っても切れない生活を送る現代人にとって、重要な成分だ。そして、このファイトケミカルのなかでも最近注目されているのが、辛み成分の一種スルフォラファンで、優れた解毒作用があるとして近年研究が進んでいる。

茹でたブロッコリー

茎まで栄養分たっぷり!余すところなくおいしくいただく

茹でたブロッコリー

「ブロッコリー」を購入する際は、鮮やかな緑色、形はこんもりと盛り上がっていて花蕾がぎっしり詰まったものを選ぼう。花蕾が黄色っぽくなっているものは鮮度が落ち、栄養価が下がっているので注意。

「ブロッコリー」は味、香りともにクセがないため、幅広い調理法が楽しめるのが魅力だ。茹でてそのままサラダにしたり、油で炒めたり、スープやパスタ、グラタンなどの具材にしても相性抜群。特にカロテンは油脂と一緒にとると吸収率が高まるので、炒める、揚げるといった調理法をお勧めしたい。なお、さっと茹でてから冷凍すれば、栄養価の高いまま保存できる。冷蔵保存する場合は、野菜室ではなく冷蔵室へ保存する方が断然日持ちがするのでお忘れなく。

茹でる際は加熱を最小限に抑えるのがポイント。ビタミンCは水に溶けやすいため茹でるとどんどん栄養素が抜けてしまう。熱湯で1分半〜2分ほど茹で、茎の部分に竹串などがスッと通るようになったらOK。茹でる際に塩を少し入れると、色素の分解が抑えられ色鮮やかに茹でることができる。水にさらすと味、香り、食感ともに損なってしまうため、茹でた後は水にさらさず、ザルに上げてしっかり水気を切ろう。

「ブロッコリー」と一緒にとりたい食材としては、イカ、ジャガイモ、鶏肉などがある。イカのタウリンにはコレステロールを下げる働きがあり、「ブロッコリー」の食物繊維と合わせることで相乗効果が発揮できる。ジャガイモと「ブロッコリー」は、どちらもビタミンCを多く含むことから美肌効果が、さらには「ブロッコリー」に含まれるビタミンCが鶏肉のタンパク質によるコラーゲン生成を助けるため、こちらも美肌効果が期待できる。

また、「ブロッコリー」の茎には花蕾の部分と同様の栄養成分や食物繊維が含まれているため、捨てずに活用したい。茎の表面の硬い部分をやや厚めに切り落とし、中心の柔らかい部分を薄切りや千切りにして炒め物にすれば、無駄なく味わうことができる。本記事の監修者である今泉久美先生によると、「茎は、ともにビタミンCを多く含むジャガイモと一緒に炒めてきんぴらにしたり、味噌汁の具材として使うのもお勧めです」とのことだ。そこで、手軽にできるきんぴらのつくり方を教えていただいた。

ブロッコリー料理
ブロッコリーの茎とジャガイモの中華風きんぴら
ブロッコリーの茎とジャガイモの中華風きんぴら
材料/2人分
ブロッコリーの茎(1個分)、ジャガイモ(1個)、
オリーブオイル(大さじ1/2)
【A】酒(大さじ1/2)、オイスターソース(小さじ1)、
塩(ごく少々)、粗挽き黒胡椒(少々)、カレー粉(好みで少々)
つくり方
1
ブロッコリーの茎は厚めに皮を剥いて太い千切りに。ジャガイモも同じ太さに切り、さっと洗って水気をきる。
2
フライパンにオリーブオイルを熱し、①をさっと炒め、ジャガイモが透き通ってきたら【A】を加えて炒め合わせて完成。カレー粉はお好みで。酒、オイスターソースの代わりにめんつゆ3倍濃縮(大さじ1/2)を、粗挽き黒胡椒の代わりに七味を振りかけてもOK。
また、ジャガイモの代わりに同じくビタミンCを多く含むピーマンやパプリカを使っても彩りよく仕上がる。

ダイエットにもってこいの万能野菜

こんもりとした可愛らしい見た目とは裏腹に、低糖質・低カロリーでありながら抜群の栄養素と食物繊維を含む「ブロッコリー」は、まさに"ハイスペック"野菜。かさがあるため食べ過ぎ防止効果があり、ダイエット食材としても人気が高い。しかも美肌、健康維持に必要なビタミンやミネラル、デトックスに役立つ食物繊維が豊富にとれることで、きれいに体型を保てるというのもうれしい。サラダから副菜、メインのおかずまでレパートリーの広さも無限大。健康にも美容にもよい「ブロッコリー」を、日々の食卓に取り入れない手はない。

(参考文献)
『野菜・藻類 新・食品事典5』(真珠書院 1992)、『そだててあそぼう75 ブロッコリー・カリフラワーの絵本』(農山漁村文化協会 2007)、『いいことずくめのブロッコリー』(角川SSコミュニケーションズ 2009)、『新・野菜の便利帳 おいしい編』(高橋書店2016)、『新・野菜の便利帳 健康編』(高橋書店 2016)、『運動・からだ図解 栄養学の基本』(マイナビ出版 2016)、『オールガイド食品成分表2019』(実教出版株式会社 2019)、『野菜のとり方早わかり』(女子栄養大学出版部 2019)など

今泉 久美(いまいずみ・くみ)

料理研究家、栄養士。女子栄養大学栄養クリニック特別講師。栄養クリニックにおいて料理指導を行う。主な活動は商品開発、レシピ開発、テレビ、雑誌、料理本、全国各地での料理教室、講演会など。野菜たっぷりで栄養バランスのよい料理を公私で実践し、週末は山梨の実家で過ごすことで、家族で食事することの大切さを説いている。ダイエットレシピや野菜を多く取り入れた料理に定評がある。ブログやインスタグラムでレシピを公開中。

今泉 久美